先日、シンガポールでたまたまご縁があり、ある大規模施設の清掃業務と、その裏側で使われている管理の仕組みを見せていただく機会がありました。
施設内では清掃ロボットや各種センサーが使われ、清掃スタッフの配置や作業もシステムで細かく管理されています。シンガポールの現場では、国籍や言語、文化的な背景の異なる多くの人が働いています。こうした多様な人材で一定のサービス品質を維持するためには、個人の経験や勘だけに頼るのではなく、仕事そのものを標準化し、誰が担当しても迷わず動ける仕組みをつくる必要があります。
教育とシステムの両方を使いながら、現場の品質を揃えていく。その考え方がかなり徹底されていたことは、まず印象に残りました。
日本でも、外国人材を含め、さまざまなバックグラウンドを持つ人が現場を支えるケースは今後ますます増えていくと思います。熟練者の能力にサービス品質を委ねるのではなく、仕組みによって一定の品質を担保することは、人手不足への対応という意味だけでなく、多様な人が一緒に働く社会を考える上でも重要になっていくのではないでしょうか。
ただ、今回もっとも興味深かったのは、清掃スタッフを管理するシステムやロボットそのものではありませんでした。
清掃という一つの業務を見に行ったはずなのに、その背後には、建物全体を一つの単位として捉える管理の仕組みがあったからです。
清掃だけを見ているわけではない
今回見せていただいた範囲では、清掃会社が自社の現場を管理するためのシステムとは別に、施設全体を管理するための仕組みがありました。
清掃会社であれば、誰が、いつ、どこで、どのような清掃を行うのか。設備メンテナンス会社であれば、どの設備をいつ点検するのか。警備会社であれば、どの時間帯にどのエリアを担当するのか。
それぞれの専門会社が持つ作業計画や実績が施設側にも共有され、建物管理者は、一つの建物の中で行われている仕事を横断して把握できるようになっています。
つまり施設管理者が見ているのは、「清掃が終わったか」「設備点検が終わったか」という個別の結果だけではありません。今日どこでどのような仕事が行われるのか、今後何が予定されているのか、契約された業務が予定どおり履行されているのかという、建物全体のオペレーションです。
さらに、利用者から寄せられるクレームや現場で発生したインシデントも関係者に共有されます。それぞれの会社が自社の担当業務だけを見るのではなく、「この建物で今何が起きているのか」という情報を共有しながら、それぞれの専門領域を担当していることが印象的でした。

人だけでなく、建物からも情報が上がってくる
そこに加わるのが、センサーやロボットから得られるデータです。
ロボットやセンサーというと、どうしても省人化や作業効率化の話に目が向きます。もちろんその効果も大きいのですが、今回見ていて興味深かったのは、施設管理者自身が建物の状態を把握するための情報を持てるようになることでした。
従来であれば、専門会社が巡回や点検の中で異常に気づき、その内容が施設管理者へ報告される、という流れが中心だったと思います。
そこにセンサーから継続的にデータが入り、ロボットからも稼働状況が上がってくるようになると、人が発見して報告する情報に加えて、機械が捉えた変化も施設側で把握できるようになります。建物管理者と専門会社が同じ情報を見られれば、異常を認識してから確認や対応に移るまでの時間も短くなります。
施設側には、各社の作業計画と実績、利用者からのクレームやインシデント、そしてセンサーやロボットから得られる建物の状態データが集まることになります。
個々の業務を管理するというより、建物で起きていることを一つの場所から見る。私には、その考え方がとても新鮮に映りました。
清掃、警備、設備、害虫管理は、本当は無関係ではない
例えば、ある建物で害虫の捕獲数が増えたとします。害虫管理だけを見れば、薬剤やトラップの配置、施工方法などを検討することになります。しかし、その背景には清掃状態の変化や排水設備の不具合、水漏れ、廃棄物の管理方法、建物の隙間など、害虫管理会社だけでは把握できない要因があるかもしれません。
清掃会社が気づいた変化、設備会社が把握している異常、PCOが持つモニタリングデータ。それぞれが別々に存在していれば、一つひとつの情報だけでは見えてこない関係もあります。
清掃、警備、設備メンテナンス、害虫管理は、それぞれ異なる専門性を持つ仕事です。一方、施設管理という視点から見ると、いずれも建物を安全で快適な状態に保ち、事故や衛生上の問題、設備不良などのリスクを低減するという点では共通しています。
会社や専門領域が違っても、対象としているのは同じ建物です。だからこそ、それぞれの分野で得られた情報が建物を軸に集まり、施設管理者が横断的に把握できれば、個別のデータだけでは見つけにくい兆候やリスクにも、より早く気づける可能性があります。
調べてみると、IFMという考え方があった
帰ってから調べてみると、こうした考え方は決して新しいものではなく、IFM(Integrated Facility Management/統合ファシリティマネジメント)と呼ばれる領域に近いことを知りました。
清掃、警備、設備管理などをそれぞれ独立した業務として捉えるのではなく、建物や施設全体の運営という視点から統合的に管理する考え方です。日本でも以前からファシリティマネジメントの取り組みは行われており、近年ではIoTやセンサー、ロボットなどから得られるデータを連携させるスマートビルの取り組みも進んでいます。
考え方としては以前から存在するものですが、実際の現場で、清掃スタッフの日々の仕事から施設全体の管理までがどのようにつながっているのかを見られたことには、大きな意味がありました。
PCOの仕事を、建物側から見てみる
施工管理アプリPICOは、PCOや点検事業者の日々の施工・点検業務を管理するためのシステムです。
そのため、私自身も普段は「専門会社が自分たちの仕事をどう管理するか」という視点から現場を見ることが多くなります。スケジュールをどう組むのか、現場で何を記録するのか、施工結果をどう残し、報告につなげるのか。専門会社の中で分断されがちな業務を、どう一つの流れとしてつなぐかを考えてきました。
一方、近々リリース予定のPICOの顧客ポータルでは、PCOや点検事業者のお客様が、管理している建物について、施工・点検データや次回の予定、報告書などをいつでも確認できるようになります。
今回の見学を通して考えたのは、そこからさらに視点を変え、専門会社側ではなく、そのサービスを受ける施設管理者側から情報を捉え直したらどうなるのだろう、ということでした。
PCOが持つ害虫のモニタリングデータも、施設管理者から見れば、建物について知るための数多くの情報の一つです。それが清掃や設備、その他の情報と建物を軸につながれば、個別の専門データとして見るときとは違った意味を持つかもしれません。
それぞれの専門会社が日々の仕事の中で蓄積しているデータが、建物という共通の単位でつながり、施設管理者がそれらを横断して見られるようになれば、共通の目的である「リスクを管理する」ということにも、また違ったアプローチができそうです。
専門会社の業務を深く理解し、その仕事を正確なデータとして残すこと。そして、そのデータを専門会社の中だけで完結させず、建物全体を管理する視点からどのように活かせるのかを考えること。
今回の見学を通して、そんな可能性を考えるようになりました。
